映画「怒り」を見て
「怒り」のストーリー構成がうまいなあ、と思いました。
※以下ふんわりネタバレします
三人の犯人候補のストーリーを交互に書く流れ。視聴者は三人のうち犯人は誰なのか、という明確な問いを謎として受け止めることができるし、個人的には時間軸に関するトリックや同一人物説も疑ったりしながら見ていました。綾野剛と松山ケンイチが整形前整形後なんじゃいかなーなんて。まあ声とか体格が全然違うので違うに決まってるヘボ推理なのですが。
複数のストーリーを交互にしたりしてつなげて物語をつくるのって結構むずかしいですよね。このつくりかたは、どうしても読者にちょっと負荷がかかってしまうんですよね。複数のストーリーがあると、どうしても視聴者は描くストーリーに対して軽重のラベリングをしてしまうわけです。怒りの場合だと、松山ケンイチ、綾野剛、森山未來の三人を描くパートが交互に挿入されるわけですが、わたしはやはり綾野剛と妻夫木聡のパートがいちばん面白くて、そのパートの続きをいちばん知りたくなってしまうわけです。そういうふうにストーリーに軽重を感じてしまうと、ふつうは他のパートがすこし退屈に感じてしまう。退屈なパートを追っている間に、視聴者に負荷がかかってしまう。ただ「怒り」はそういうところも上手で、他のパートも負けずに面白いし、なにより全体をつらぬく物語のパワーがあった。なので、その点が瑕疵になるということもないのですが。
上手いなと思ったのが、ミステリー的な正体不詳のキーとしてゲイの匿名性を見事に盛り込んだところ。あれほんと上手いなと。そういうミステリーとゲイカルチャーのつなげかたがあったんだなあと。すごく感心しました。
真似をするというと微妙な言い方になるけれど、わたしも複数のストーリーラインをつないだ人物当てにトライしてみたい。ただ、いまのところ考えているのは、犯人当てではなくて、被害者当て。つまりみずきに匿名性をまとわせて書いてみれば良いんじゃないかと。
わたしの場合はSNSを物語の重要なアイテムとして用いることは決まっているので、その匿名性も生かしつつ、3〜4つのストーリーラインを追わせる構図にチャレンジしてみたい。
そしてもうちょっとやはり人物に深みというか、人生の事情みたいなものがわたしの作り方では欠けているなと感じたのでした。怒りの真似になってしまってはいけないけれど、あれくらいのクオリティをわたしもちゃんと目指したい。